スピンオフのすゝめ

あなたは自作のスピンオフを作ったことがあるだろうか。ここではスピンオフという単語を挙げたが、いわゆる「本編には影響しない裏話的な派生作品」のことを意味している。派生作品と一言で言っても、色々なタイプがあるのはなんとなくご存知のことだろう。どんな種類の派生作品があるか、あなたはいくつ挙げられるだろうか?

派生作品の種類

外伝、サイドストーリー、アナザーストーリー、番外編、スピンオフ、後日談、前日譚など。それぞれ微妙にニュアンスが違ってくるのだが、詳細な説明は割愛させていただく。気になる人はグーグルさんで聞いてみよう。とはいえ、調べてみても違いがよくわからないものもあるかもしれない。派生作品の種類には明確な線引があるわけではなく、なんとなくで分類されることのほうが多いからだ。小説で言えば純文学とエンタメの違いのように、その境に近ければ近いほどとても曖昧な分類がされているのだ。

スピンオフってなんだろう?

先に列挙した中でわたしがよく作るのは、スピンオフだ。では、スピンオフとは一体なんぞや。

本編の著作者や著作権者が、本編と同じ世界観や世界設定の上で、本編において脇役であった人物や物語の中心でなかった場所などに焦点を当てて、新しい作品を制作する(派生させる)こと。(Wikipediaより)

この文章を少し言い換えてみよう。本編と相違ない世界で、本編に登場するキャラクターたちが、本編に出てくるがメインではなかった場所で物語を築いていく。つまり、本編により近い状態での派生作品が、スピンオフと呼ばれるものなのではないかとわたしは考える。では次に、わたしが何故スピンオフを好んで作るかを話していこう。

スピンオフから見えてくる本編

本編のストーリーを追っていくだけでは、キャラクターの全体像を掴むことは出来ない。キャラクター表をいくら入念に作ったとしても、物語に登場するキャラクターにはそれぞれ物語の中での役割があり、滞りなく物語を進めるためにその設定のすべてを見せてはいない。本編を進めていくだけでは、表層的なキャラクター像しか掴めないことも多い。キャラクター表からだけではなく、実際に動くリアルな存在としてのキャラクターを掴まなければならない。それに適任なのが、裏エピソード、つまりはスピンオフだ。

多角的視点で物語を見つめよう

スピンオフでは、主人公が必ずしも本編のそれであるとは限らない。脇役で出てくるキャラクターだったり、本編で存在はほのめかされているが実際登場はしないキャラクターの可能性だってある。どのキャラクターを登場させ、どんなストーリーにするかはあなた次第だ。主人公が異なれば、物語も変わっていく。ひとつの事実があったとして、それを二つの異なる視点で見つめた時、必ずしも事実が見えるとは限らない。しかし、そのキャラクターにとっての事実は見えてくる。色々な事実を重ねていくことで、本編の世界が広がる可能性に繋がっていく。そのためにも、色々なスピンオフを作ってみることをオススメしたい。多角度の視点から本編を見つめるためにも、スピンオフ作成はとても便利な手段だと言えるだろう。

スピンオフでは会話を大切にしよう

わたしがスピンオフを作る時は、本編の設定のまま物語の側面を描き、なるべくキャラクター同士を会話させるようにしている。このキャラクター同士の会話、というのが非常に重要で、このキャラクターから見たらこの子はこう見えるという、本編では詳細に描かれないけれど確かにそこに存在する関係を見つけやすくなる。キャラクター同士の見えない関係性を知ることは、物語に奥行きを出すためにも必要だ。そして関係性を手っ取り早く知るためには、会話させるのが一番だとわたしは考える。そこには、キャラクター同士のやり取りの中で見えてくるリアルさを大切にしたい、という狙いもある。キャラクター表の中だけではわかりにくかった個性が、実際にキャラクターに会話をさせることで、言葉尻や話し方などから見えてくるのだ。

知っていることを隠してみよう

もちろん作者だからといってキャラクターのすべてを知っている必要はないのだが、知らないでキャラクターを描くのと、知っているけれどわかっていない体で描くのとでは雲泥の差だ。もしかしたら今回のわたしの意見は、知っていることはなんでも表に出したくなってしまうタイプの人には、あまりオススメしないほうがいいのかもしれない。とはいえ、情報の出し入れを自分でコントロール出来るようになることは創作の高みへと向かう第一歩だと思うので、出来れば積極的に取り入れて欲しいとも思う。物語について、作者が知りすぎて損をすることはないはずだ。知っていることをうまく隠して、読者にさり気ないヒントを与えるくらいがちょうどよいのかもしれない。

本編のための派生作品を作ってみよう

生作品は自然発生的に作られるのが本当なのかもしれない。自分が生み出したキャラクターには愛着が湧き、どんなに性格が悪いキャラでも可愛く思えるものである。そんな愛しいキャラクターをもっと描きたいという想いが、派生作品へと導く。派生作品とは、いわば自分ひとりだけで完成する二次創作である。その二次創作を自分の楽しみのために作るか、それとも物語の品質向上のために作るか。要は意識の持ち方の違いでしかない。完全に自分の楽しみのためだけに作られた派生作品も、作っていくうちに新たな発見があるかもしれない。それが本編に何かしらの良い風を吹かせるきっかけになるのだとしたら、しめたものだ。大いに利用してしまえばいい。

本編という枠から離れた時に見えてくるものもある。物語を進めることだけに熱中しないで、もっとキャラクターと向き合いキャラクターを知り、じっくりと物語を醸造するように作っていけたら。その物語はきっと、更に素敵な物語になるだろう。本編完結というゴールに辿り着くためには、遠回りをしてみるのもいいのかもしれない。

表に出ないからこその価値

「本編には出せなかったけど、こういったエピソードが実はあるんです」

WEB文芸誌の編集長を務めていると、そんな作家の声を聞くことがある。通常の読者では知り得ない情報をゲットした時には、役得だなと思いつつその裏エピソードを楽しむこともある。裏エピソードはあくまで裏なのであって、表に出てきては意味がない。意味というか、価値がない。たまに、これは表で使ってもいいのでは、と思うエピソードを隠しておきたがる作家もいるが、そういう場合もわたしは作家の意思を尊重している。

すべてを見せるだけが、作品ではない。人間だって、ミステリアスな人の方がその人をもっと知りたいと興味が湧くし、誰も彼もがすべてをさらけ出して生きていたとしたら社会は機能しないだろう。けれど、裏エピソードの完成度がとても高く、それがひとつの作品とみなせるレベルに達した時には。スピンオフとして、どこかで発表するのもまた面白いかもしれない。