キャラクターの弱みを握れ!

唐突だが、あなたには 「弱点」 があるだろうか?
計算が苦手、あんこが食べられない、気圧差に弱いなど、誰もが何かしらのウィークポイントを抱えて生きていると思う。それは決して恥ずべきことではなく、わたしたちが人間であることの証のようなものだ。
ちなみに先に挙げた 「弱点」 はすべて実際にわたしの 「弱点」 である。そんな 「弱点」 だらけの笠原小百合がお送りする今回の主張はずばり 「キャラクターには弱点を作るべし」 ということだ。

第2回では「キャラクター表の作り方」について書いたが、キャラクター表を作る際、忘れずに追加して欲しい項目がある。それが 「弱点」 だ。
最初から項目に付け加えておいて良いくらい、 「弱点」 は物語を作る上で非常に重要な鍵であるとわたしは考えている。 「弱点」 のあるキャラクターは魅力的であるだけでなく、物語を円滑に進めていくためにも欠かせない要素なのだ。その理由を具体例でみていこう。

わたしの書いたキャラクター小説(ライトノベル)の『フィアンセは猫である』の主人公は、平凡な男子高校生という設定だった。ライトノベルの定番中の定番として「ごく普通の男子高校生である僕が何故かいきなりモテモテに」といった展開にしたかったのだ。そこで何の特徴もないのが特徴の男の子を主人公にいざ物語を進めていこうとした。

しかし、思惑通りに事は運ばない。彼はぴくりとも動いてくれなかったのだ。動いてくれなかった、という言い方は少々他人任せなイメージかもしれない。正確には、動かそうにもわたしは特徴のない人間の動かし方がわからなかったのだ。

キャラクターに個性がないと物語の展開や他のキャラクターとの掛け合いなどで物語を進めなくてはならず、それにはある種のテクニックが必要となってくる。それは、キャラクター小説初心者のわたしには至難の業だった。もっとお手軽に主人公を、物語を動かすことは出来ないだろうか。

悩みに悩み、わたしは主人公の 「弱点」 を思い付く。飼猫にメロメロであるということ。普段はおとなしい普通の男子高校生だが、飼猫のことになると心配性で過保護な親バカっぷりを発揮する。飼猫が 「弱点」 であるという発想から、主人公の性格形成まで一気に出来上がった。そして飼猫という弱みを握った途端、急激に主人公が動かしやすくなったのだ。

それはきっとわたしがそのキャラクターの内面へと一歩進めたということなのだと今になってから思う。そこからは今までが嘘のように物語が進み、次から次へと発想が生まれ、無事に物語は完結することが出来た。

さて、ここで何故わたしが 「弱点」 を作ろうと思い付いたかといえば、それはある本を読んでいたからだった。榎本秋著『ライトノベルを書きたい人の本』と出逢ったのはもう随分前だったが、未だに物語、特にキャラクター小説を書くときには読み直したりと重宝している。

こういった指南書は苦手に思う人もいるかもしれないが、物語の作り方を勉強しておいて損はない。知っていてその書き方をしないのと、知らずにただ書いているのとでは、経験値の溜まり方が全く違うと言っても過言ではない。

こうして実際に困った時に「そういえばあんなこと書いてあったなあ」となんとなく思い出せるだけでも、読む価値はあると感じる。「キャラクターには弱点を作るべし」という概念は、確かにこの本が出発点ではあったが、その後の執筆活動の中から得た経験によって確固たる己の信念へと変わっていった。

指南書に書いてあったことの裏付けを自分で発見出来た時の喜びは、執筆活動への更なるやる気をもたらしてくれただけでなく、物語の完成度も格段に良くしたように思う。

ここで、はっきり言ってしまおう。完全無欠のキャラクターほど面白くないキャラクターはいない。そんなことはない、と反論の声も聞こえてきそうだがよく考えて欲しい。完全無欠と聞いて思い浮かべたそのキャラクターは、本当に完全無欠だろうか?

例えば、世間を騒がす白いマントのマジシャン大怪盗は実は魚が苦手だし、もっと言ってしまえば幼馴染の女の子が「弱点」とも言えるのではないだろうか。こういう風に考えてみると、完全無欠、完璧なキャラクターなど存在しない。完璧な人間が存在しないのと同じように、キャラクターにも愛すべき 「弱点」 をひとつは残したくなってしまう。そんな深層心理がどこかで働いているのかもしれない。

人間は完璧ではないからこそ、完璧な存在に憧れを抱くものだ。けれど、それをキャラクターに反映したらどうだろうか。完璧な性格、完璧な容姿、完璧な環境……すべてが完璧なキャラクターたちが繰り広げるその物語は、果たして本当に面白いだろうか?

わたしは、そうは思わない。書きようによっては面白くなり得る可能性もあるが、わたしが物語に求めるのはそんな完璧性ではない。例えキャラクターが宇宙人やロボットだったとしても、見たいのは人間らしさの残る物語なのだ。そしてその人間らしさを出すためにはどうしたらよいか。それを効果的に表現するためには 「弱点」 を演出してあげることが一番だとわたしは思う。

また、「弱点」 は共感度の高いキャラクターに育てる第一歩だとも考えられる。キャラクターのどこか憎めない部分、意外な弱い部分が垣間見えた時、キャラクターへの愛着が湧くのだろう。愛着があるかないかで、読者の物語へのめり込み度合いは違ってくる。共感が生まれれば、キャラクターが愛され、物語に感情移入もしやすくなるという利点も得ることが出来る。まさに一石二鳥ではないだろうか。

ここまでつらつらと書いてきたが、そういった理由によりわたしはキャラクターには必ず 「弱点」 を作ることをオススメしたい。弱さを持つことでキャラクターの強さが際立ち、魅力溢れる人格が生まれることだろう。

一見完璧に思える人物が見せるふとした弱さほど胸にキュンとくるものはないと思うし、弱さを隠そうとするその姿も愛おしいと思うのだが、そのあたりは個人差もあると思うのであまり強くは言えない。
だが、物語が平坦にならないためにも「お!」と思わせる緩急をつけるためにも、キャラクターに 「弱点」 を作りそれをうまく活用してみてはいかがだろうかと提案して、今回の結びとしたい。